常楽(3)/小説「新・人間革命」
【常楽3】
ガルブレイス博士の身長は二メートルを超える。案内する山本伸一の頭は、博士の肩まで届かなかった。会談の会場に到着すると、あらためてあいさつを交わした。
伸一は博士を見上げ、その頭に手を伸ばしながら、ユーモアを込めて語った。
「既にご覧になったと思いますが、日本一の山は富士山です。私は、経済学の巨匠・ガルブレイス先生を迎え、その富士を仰ぎ見る思いで、語らいを進めさせていただきます」
博士が微笑みながら応えた。
「私は、この背の高さから皆さんが想像するほど、危険な人物ではございませんから」
大笑いとなった。すかさず伸一は言った。
「背の高い人は、遥か遠くまで見通すことができます。しかし、地面は背の低い人の方が、細かく、明確に見ることができます。したがって、両者が論議し、意見の合意をみるなかに、全体の確実性を見いだしていけるのではないでしょうか」
会談には、博士を招いた企業の一つである出版社の社長らも同席していた。二人のやりとりに顔をほころばせ、耳を傾けていた。
語らいは、伸一と博士が、交互に問題提起し、それに対して意見を交換するかたちで進められた。まず、伸一が尋ねた。
「現代は、人間の生にばかり光をあて、死というものを切り離して考えているように思います。しかし、生の意味を問い、幸福を追求していくうえでも、また、社会、文明の在り方を考えていくうえでも、死を見つめ、死とは何かを探究し、死生観を確立していくことが極めて重要ではないでしょうか。
仏法では、生命は永遠であると説きます。つまり、人間の死とは、生命が大宇宙に溶け込むことであり、その生命は連続し、再び縁に触れて生を受ける。そして、生きている時の行動、発言、思考が、『業』として蓄積され、継続するというものです。
そこでお伺いしたいのですが、博士は、人間の死後は、どうなるとお考えですか」
死の解明なくしては、生の解明もない。
【「聖教新聞」2016年(平成28年)1月5日(火)より転載】
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