浩洋子の四季

古季語を探して、名句・秀句を紹介します。

常楽(5)/小説「新・人間革命」

 

【常楽5】

 人生についての語らいのなかで、山本伸一ガルブレイス博士に、「これまでの人生で最も悲しかったことはなんでしたか」と尋ねた。

 「最愛の息子を亡くしたことでした。親の私の目から見ても、知性もあり、賢い子どもでした。それが若くして白血病になり、他界したんです……」

 その言葉から伸一は、かつてトインビー博士と対談した折のことが思い出された。人生行路のなかで遭遇した一番悲しい出来事について尋ねると、トインビー博士は、「私の息子が、自ら命を絶ったことです」と、沈痛な面持ちで語ってくれた。体の前で指を組み、祈るような姿勢のままじっと動かず、目を潤ませる姿が、忘れられなかった。

 どんなに著名な人の人生にも、悲哀の大波がある。人は、宿命の嵐に身悶えながら、戦い、生きている。試練なき人生はない。

 その苦悩に負けるか。その苦悩のなかで自らを磨き、高め、強くしていくか――そこに人生の幸・不幸のカギがある。

 ガルブレイス博士は、さらに、自分をインド大使に任命したジョン・F・ケネディ大統領が凶弾に倒れた時の苦衷を述懐した。

 そして話題は、米中関係に移り、さらに、中国の故・毛沢東主席、故・周恩来総理、インドの故ジャワハルラル・ネルー首相など、指導者論が展開されていった。

 語らいのなかで伸一が、明年にはインドを訪問する予定であることを告げると、博士は、こうアドバイスした。

 「インド北西部とパキスタンに広がるパンジャブ地方を、ぜひ訪問してください。ここはハラッパーの遺跡など、古代文明発祥地として有名ですが、大発展を遂げています」

 すかさずキャサリン夫人が、「南西部にあるケララ州の発展も目覚ましいものがあります」と言葉を添えた。博士のインドでの大使生活を支え続けてきた夫人は、驚くほど、現地の事情に精通していた。

 生活者の視点に立つ女性の眼は、最も的確に、その社会の実像をとらえる。

【「聖教新聞」2016年(平成28年)1月7日(木)より転載】


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