浩洋子の四季

古季語を探して、名句・秀句を紹介します。

力走 三十一〈小説「新・人間革命」〉

 


【力走 三十一】 法悟空 内田 健一郎 画 (5788)

 栗山三津子の手術は、大成功に終わった。
 そして、年末に退院し、年が明けると、何事もなかったかのように、元気に活動を開始し、これまで以上に、強い確信をもって、多くの同志を励ましていくことになる。
  
 十二月四日、山本伸一は峯子と共に、三重研修道場から、車や列車を乗り継いで大阪へ行き、伊丹空港から、空路、高知へと向かうことになっていた。
 この日、三重は曇天であったが、大阪に入ると、雨が降り始めた。高知も雨だという。
 飛行機は、少し遅れて伊丹空港を飛び立った。高知空港は雨のため視界が悪く、しばらく上空を旋回していた。もし、着陸できなければ伊丹空港に引き返すことが、機内アナウンスで伝えられた。
 伸一の一行を出迎えるために、高知空港に来ていた県長の島寺義憲たちは、灰色の雨空をにらみつけながら、心で懸命に唱題した。
 伸一が四国を訪問するのは、一月、七月に続いて、この年三度目である。しかし、高知入りは六年半ぶりであった。それだけに島寺は、“何が何でも山本先生に高知の地を踏んでいただくのだ”と必死であった。
 一行の搭乗機は、高知上空を旋回し続けていたが、遂に午後四時半、空港に着陸した。予定時刻より、一時間近く遅れての到着であったが、乗客は皆、大喜びであった。
 伸一は、機長への感謝を込め、和歌を詠み贈った。
 「悪天に 飛びゆく操縦 みごとなる
   機長の技を 客等はたたえむ」
 彼は、その見事な奮闘への賞讃の思いを、伝えずにはいられなかったのである。
 皆が感謝の思いを口にし、表現していくならば、世の中は、いかに温かさにあふれ、潤いのあるものになっていくか。
 空港のゲートに伸一の姿が現れた。
 「先生!」と、島寺は思わず叫んでいた。
 伸一は、微笑み、手をあげて応えた。
 「新しい高知の歴史をつくろう!」


【「聖教新聞」2016年(平成28年)4月29日より転載】


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