浩洋子の四季

古季語を探して、名句・秀句を紹介します。

力走 三十四〈小説「新・人間革命」〉

 

【力走 三十四】 法悟空 内田 健一郎 画 (5791)

 島寺義憲の高知県長就任と同時に、県婦人部長にも、三十代の斉木藤子が就いた。若い中心者二人が、高知広布の車軸となって前進していくことになったのである。
 島寺は、地道に県内を回った。
 村八分のなかで、敢然と信心を貫き、地域の大多数の人びとを学会の理解者にしていった、多くの草創の同志がいた。幾つもの病苦や経済苦を信心で勝ち越えて、大きな信頼を勝ち取ったという“実証の人”も随所にいた。皆、大確信にあふれ、創価学会員であることに最高の誇りをいだき、一途に広宣流布に生きようとしていた。島寺は、心から感動を覚えた。頭が下がった。
 かつて高知では、草創期の中心幹部が、不祥事を起こした末に、退転、反逆していくという事件があった。そのためか、なかには、「幹部には頼らん。自分の組織は、自分で守る」と言う草創からの幹部もいた。島寺がその地域の会員宅を家庭訪問することについても、「勝手なことをされては困る」と言い出す始末であった。
 彼は、言葉を失った。幹部への信頼が、ひとたび崩れてしまったならば、それを取り戻すのは容易ではないことを、肌で感じた。
 “よし、大誠実をもって、皆のために粘り強く、尽くし抜いていこう!”
 高知で育った物理学者で随筆家の寺田寅彦は言った。「実例の力はあらゆる言詞より強い」(注)と。
 山本伸一は、島寺のことを気にかけ、県長会などで彼と顔を合わせるたびに、さまざまなアドバイスを重ねた。
 「話は、活動の打ち出しだけではなく、信心の歓喜と確信を与えることが大事だよ」
 「副役職者を大切にしなさい。その力が本当に発揮されれば、広宣流布は加速度的に進みます。副役職の人には、中心者の方から積極的に声をかけ、信義と友情の絆を結んでいくんです。強い組織というのは、副役職者が喜々として活躍している組織なんです」
 島寺は、伸一の指導通りに実践した。

 小説『新・人間革命』の引用文献
 注『寺田寅彦全随筆二』岩波書店=現代表記に改めた。


【「聖教新聞」2016年(平成28年)5月3日より転載】


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