力走/四十六〈小説「新・人間革命」〉
力走 四十六 /法悟空 内田健一郎 画 (5803)
七日、高知研修道場の開所一周年を祝う第一回の記念勤行会が、午後一時から行われた。山本伸一は、御書を拝して、仏法は死の問題を解明した大哲理であることや、唱題の大切さを、大確信を込めて訴えた。
終了後には、参加者をねぎらおうと、ピアノも弾いた。また、役員として運営にあたる男女青年部の代表らには、「立大」や「光友」等と揮毫した色紙を贈った。
伸一が帰途に就く参加者のバスを見送り、何人かのメンバーと記念撮影していると、県長の島寺義憲が、ダブルの礼服に身を包んだ白髪の男性を紹介した。
「黒山芳次さんです。研修道場の整備に尽力され、しだれ梅や椿、桜の木などを寄贈してくださいました」
伸一は、黒山の手を握りしめて言った。
「ありがとうございます」
黒山は、目を潤ませて語った。
「先生! ずっと、お会いしたいと願い続けておりました。嬉しいです」
「私の方こそ、お会いできて嬉しい。今日は、奥さんはご一緒ではないのですか」
「家におります」
「奥さんも一緒に来られたらよかったのに。今度、お宅へ、御礼にお伺いします」
「めっそうもない。わしの家は、イノシシ小屋のようなものですから」
「でも、イノシシ小屋でも、御本尊様は、御安置してありますよね」
「はい……」
「それならば、お宅は常寂光土であり、大宮殿です」
「そうですね」
明るい笑いが広がった。
黒山が寄贈してくれた樹木の植えられた場所は彼の名を冠し、「黒山庭園」と名づけられた。翌年、伸一は、自著『忘れ得ぬ出会い』が発刊されると、句を書いて贈った。
「いのししの 小屋を忘れじ 不二の旅」
同志の心遣いに、最大の真心で応えるなかに、創価の魂の連帯が築かれてきたのだ。
【「聖教新聞」2016年(平成28年)5月18日より転載】
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