力走/四十八〈小説「新・人間革命」〉
力走 四十八 /法悟空 内田健一郎 画 (5805)
この八日の勤行会でも、山本伸一は、あいさつのあとにピアノを演奏し、終了後には、参加者のバスを見送った。乗車を待つ同志の列の中に入り、声をかけ、さらに、乗車した人たちとも、窓越しに握手を交わした。
同行の幹部らは、満足な休息もとらずに動き続ける伸一の体が、心配でならなかった。
幹部の一人が、遠慮がちに、「少しはお休みになってください」と伝えたが、彼は、全力で激励を続けた。
“激風の吹き荒れる今、私が同志を励まさずして、誰が励ますのか! 今しかないではないか! 励ます側にすれば、何百人対一人であっても、同志にとっては一対一なのだ。激励には、手抜きなどあってなるものか!”
彼の心は、激しく燃え盛っていた。
女子部の幹部が、「研修道場の庭で、女子部の有志が野点を行います。ぜひお越しください」と伝えてきた。すぐに向かった。
庭の一角を紅白の幕で仕切り、畳を敷き、琴の音が流れるなか、着物姿の女子部員たちが茶を点ててくれた。眼前に、太平洋の青い海原が広がり、一艘の船が白い航跡を残して沖に向かっていた。
「最高の景色だね。みんなが休めと言うものですから、ゆっくりさせていただきます」
伸一は、婦人部の有志の手作りだという和菓子を口にし、茶を飲んだ。
「お菓子も、お茶もおいしいね! 結構なお服加減です。皆さんの着物も、よくお似合いです。“かぐや姫”のようですよ。
これから、日本は、ますます国際化していくでしょう。当然、語学を身につけることは大事ですが、同時に、お茶、お花、着物、お琴、日本舞踊など、『これが日本文化です』と紹介できるものを習得していくことも大切です。国際化というのは、無国籍化することではないんです。日本らしさ、さらには、高知らしさを守り、身につけていくことは、国際人の一つの要件です」
結局は、激励に終始した。
ここは、後年、「希望の庭」と命名された。
【「聖教新聞」2016年(平成28年)5月20日より転載】
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