力走/五十四〈小説「新・人間革命」〉
力走 五十四/法悟空 内田健一郎 画 (5811)
十二月九日、山本伸一は、三泊四日にわたる高知研修道場での指導を終えて、高知市に戻ることになっていた。伸一は、正午過ぎから、研修道場に集って来た、四、五十人ほどの人たちと勤行して、出発することにした。
勤行が終わり、皆の方を向くと、「先生!」と声をかける人がいた。補聴器をつけた、高齢の男性であった。土佐清水市の中心部から二十数キロ離れた集落で、最初に入会した芝山太三郎である。その集落は、タヌキやウサギが生息する、山間にあった。
彼の悩みは、妻が病弱なことであった。近くには病院もない。一九五八年(昭和三十三年)、“妻が元気になるなら”と信心を始めた。
芝山は、学会の指導通りに弘教に歩いた。すると、周囲から「いよいよ、頭がおかしゅうなってしもうた!」と陰口をたたかれた。
だが、彼は微動だにしなかった。芝山もまた「いごっそう」であった。こうと決めたら、どこまでも突き進んでいった。
半年後、妻が健康を回復した。
“この御本尊はすごい! どんな願いも、必ず叶えてくれる!”
その確信が、ますます弘教の闘志を燃え上がらせていった。
広宣流布の原動力とは、御本尊への絶対の確信であり、功徳から発する歓喜である。体験を通して、それを実感し、そして、大法弘通の使命を自覚することによって、広布の流れは起こってきたのだ。
芝山は、この日、地域広布の伸展を伸一に報告しようと、妻と息子の三人で、勇んで研修道場に駆けつけてきたのである。彼は、あらん限りの力を振り絞るようにして語った。
「先生。わが集落は、もう一歩です。入会二十年、半分ほどの人たちが学会員となりました。なんとしても広宣流布します! それまでは、わしゃ、死ねんと思いよります」
「ありがとう!」
伸一は、この男性のもとに歩み寄り、抱きかかえるようにして、手を握り締めた。
「信念の勝利です。敬服いたします!」
【「聖教新聞」2016年(平成28年)5月27日より転載】
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