浩洋子の四季

古季語を探して、名句・秀句を紹介します。

力走/六十二〈小説「新・人間革命」〉

 


力走/六十二  法悟空 内田健一郎 画 (5819)

 山本伸一は、任用試験の会場を提供してくれた、保育園の園長である高原嘉美の自宅も訪問した。試験会場を提供してもらったことに心から感謝を述べ、用意していた色紙に、「光福」などと揮毫して贈った。
 高原は、自分の四十余年の人生を振り返りながら、その歩みを語っていった。
 彼女は、結婚後、貧乏と家庭不和に悩みながら幼子を育て、半身不随の舅の面倒をみた。釣瓶で水を汲み、薪でご飯を炊き、家族の朝食の世話をする。自分は残り物を口に入れると、農作業に飛び出す毎日であった。
 身も心も、へとへとに疲れ果て、なんの希望も感じられなかった。その時、実家の母の勧めで入会した。義父母からは「嫁が先祖代々の宗旨を変えるとはもってのほかだ」と叱られた。近所からは「あそこの嫁がナンミョーに入った」と嘲笑され、村八分にもあった。
 “信心をやめよう”と思い悩む日が続いた。しかし、学会の先輩が足繁く訪ねて来ては、「この信心は正しく、力があるから、魔が競ってくる。あなたが変われば、必ず環境も変わる」と確信をもって指導してくれた。
 励ましによって、人は師子となる。
 “よし! どんなに苦しくとも頑張ろう。この信心で、宿命を転換していくんだ!”
 高原は、信心で、逆境を一つ一つ乗り越えていった。そのたびに確信が増した。
 ある時、持っていた土地が高く売れた。それを資金にして、家の周りの土地を購入し、保育園をつくろうと思った。地域の人たちの要請であった。保育園の開園は、順調に進んだ。献身的な職員にも恵まれた。地域の人びとも、さまざまに尽力し、守ってくれた。
 高原は、喜びを噛み締めながら語った。
 「山本先生! 入会前には、思ってもいなかった幸せな境涯になれました」
 「断固として信心を貫いてきたからです。だから、周囲の方たちも協力してくれるんです。信心こそ、一切に勝利する力なんです」
 妙楽大師は「必ず心の固きに仮って神の守り則ち強し」(御書一一八六ページ)と。

 

【「聖教新聞」2016年(平成28年)6月6日より転載】


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