浩洋子の四季

古季語を探して、名句・秀句を紹介します。

力走/六十五〈小説「新・人間革命」〉

 


力走/六十五  法悟空 内田健一郎 画 (5822)


 高知文化会館には、まだ、たくさんの人が詰めかけていた。山本伸一は、もう一回、勤行会を行った。ここでは、創価の同志の絆を強め、不退の信心を貫くよう、情熱を込めて呼びかけた。彼は、一人たりとも、一生成仏の軌道から外れてほしくはなかった。
 帰り支度をして、会館の一階に下りた伸一は、運営に使われていた部屋に顔を出した。
 彼の姿を見ると、合唱団のピアノ演奏を担当した女子部員が、伸一に報告した。
 「先生、私は平尾光子と申します。今回、高知で先生の出られた勤行会に、すべて合唱団として参加することができました。
 実は、家族のなかで、父だけが未入会なんですが、私は感激のあまり、毎日、先生のお話を父に伝えておりました。父も、熱心に話に耳を傾け、一緒に喜んでいました。
 それで、こんな句を詠んでくれたんです」
 彼女は、短冊を差し出した。
 「大いなる 冬日の如き 為人」
 「曰はく 一語一語の 暖かし」
 伸一は、微笑みながら言った。
 「いいお父さんだね。あなたは本当に愛されているんです。娘さんが、冬の太陽のように周囲を照らし出し、慕われる人に育ったことを、心から喜んでいる心情が伝わってくる句です。また、あなたの姿を通して、私のことを知り、共感してくださっているんだね。
 娘としてのあなたの誠実な振る舞いが、お父さんの心に響いたんです。大勝利です。
 私も、お父さんに句をお贈りしたいな」
 しかし、出発間際であり、筆もなかった。
 「では、お父さんに、『近日中に句をお贈りさせていただきます』とお伝えください」
 それから一週間ほどして、伸一から彼女のもとへ、父親あてにトインビー博士との対談集『二十一世紀への対話』が届けられた。
 そこには、一句が認められていた。
 「父の恩 娘の幸せ 祈る日々」
 ほどなく父親は、自ら入会した。そして、自宅を会場に提供するなど、学会を守る頼もしい壮年部となっていったのである。

 

【「聖教新聞」2016年(平成28年)6月9日より転載】


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