浩洋子の四季

古季語を探して、名句・秀句を紹介します。

清新/二十一〈小説「新・人間革命」〉

 


清新/二十一 法悟空 内田健一郎 画 (5846)


 岩手県陸前高田市で養殖漁業を営んできた村川良彦は、ローンで購入した最新設備の漁船を津波で失った。港も全壊した。失意と落胆のなかで地区部長の彼は、同志の安否確認や集落の復旧作業などに取り組んだ。壊滅的な街を見ると、絶望的な思いに襲われた。
 “前に進まなければ!”――唱題し、学会の指導をむさぼるように読んだ。
 彼には、震災の日の早朝、妻の文と収穫した一トンのワカメがあった。三陸ワカメのなかでも最高級の品で、普段の何倍もの値がつく。生活はつなげる。ところが彼らは、そのワカメを惜しげもなく近隣に配り始めた。
 人は食べれば元気が出る。今、大事なのは、みんなが元気になることだ――と考えての決断だった。喜ぶ人びとの顔。勇気が湧いた。“またワカメをつくろう”と思った。
 「聖教新聞」が被災地を特集し、村川が地区部長を務める広田地区の様子が紹介されると、全国の同志から何百通もの激励の手紙が届いた。「阪神・淡路大震災」で被災した兵庫県西宮市の、同じ「広田」の名を冠する広田太陽地区からも、寄せ書きが送られた。
 しかも、この兵庫県の地区部長は村川と同姓であり、震災で自宅が全壊した体験をもっていた。そして、陸前高田の村川の自宅を訪ね、自身の体験を語ってくれた。「兄弟地区として一緒に頑張りましょう」の言葉が、親しい人たちを失った村川たちの心に響いた。
 “苦闘する友を断じて放ってはおかぬ。自分にできるすべてのことをするのだ!”
 これが仏法兄弟の連帯の心である。
 津波ですべてを失い、漁業の再開を断念した人もいた。しかし、村川は、学会員の自分が、集落の復興の先頭に立とうと決意し、共同での養殖作業を進め、震災の翌々年一月に新しい漁船を購入した。彼は、地域復興の推進力となっていったのだ。
 創価の同志の生き方には、「人のために火をともせば・我がまへあき(明)らかなるがごとし」(御書一五九八ページ)との精神が脈打っている。これこそが地域を建設する力となる。

 


【「聖教新聞」2016年(平成28年)7月8日より転載】


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