〈小説「新・人間革命」〉
清新/三十四 法悟空 内田健一郎 画 (5859)
大野支部の激励会が行われた日の夜、山本伸一は方面・県幹部との懇談で皆に尋ねた。
「大野支部の中沢さん夫妻もそうだが、青森の幹部は、夫婦で支部長・婦人部長などとして活躍しているケースが実に多い。これは、地域広布を進めるうえからも、すばらしいことだと思う。こうした流れは、いつごろからつくられたのかね」
県の幹部が答えた。
「青森支部の初代支部長の金木正さんからです。たとえば、夫人だけが入会を決意した場合、『ご主人も一緒に信心した方がよい。私が話をしに行きます』と言って、何度もご主人のもとに通われました。『一家和楽の信心なんだから、夫婦そろっての入会が大事なんだ』と、よく語っていました。
事実、夫婦で信心を始めた方は、退転する人も少なく、夫婦一緒に、組織のリーダーに育っていることが多いのです」
伸一は、頷きながら言った。
「みんながみんな、夫妻で信心するわけにはいかないだろうが、紹介者や幹部は、入会した人が、その後、堅実に信心を全うしていけるように、さまざまな応援をしていくべきです。成果に焦った折伏だと、どうしても、その基本がおろそかになり、結果的に新しい人材が育たないことになってしまう。
それにしても、青森での金木夫妻の功績は大きいね。私は、金木さんが作ってくれた、おにぎりの真心の味が忘れられないんだよ」
それは、伸一が会長に就任した翌年の一九六一年(昭和三十六年)二月のことであった。彼は、八戸支部の結成大会を終え、十和田支部の結成大会に向かう途次、列車の乗り換えのため、青森駅に降りた。駅には支部長・婦人部長の金木正・キヨ夫妻をはじめ、青森支部のメンバーが待っていた。
キヨは、伸一たち一行が、“列車の長旅で、おなかをすかせているのではないか”と、わざわざ、おにぎりを届けてくれたのだ。
相手の立場になって考え、真心を尽くそうとする一念から、最高の配慮が生まれる。
【「聖教新聞」2016年(平成28年)7月25日より転載】
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