浩洋子の四季

古季語を探して、名句・秀句を紹介します。

〈小説「新・人間革命」〉

 

清新/四十二 法悟空 内田健一郎 画 (5867)

 青森文化会館を後にした山本伸一が、三沢会館を初訪問して、空路、東京に戻ったのは午後三時半過ぎであった。
 彼には、二月初めから十八日間にわたる香港・インド訪問が控えていた。その準備とともに、新年の出発となる本部幹部会や全国県長会議、本部職員の会合、東京支部長会など、定例の諸行事も間断なく組まれている。また、その間に、国際宗教社会学会の会長を務めたオックスフォード大学のブライアン・R・ウィルソン社会学教授との会談や、アビタール・シン駐日インド大使との会談も予定されていた。
 広宣流布、世界平和の実現をわが使命と定め、その潮流を起こしていくには、なさねばならぬことはあまりにも多かった。まさに体が幾つあっても足りない状況である。しかし伸一は、常にそれを着実にこなしていった。
 時として人は、一度に幾つもの大きな課題を抱え込むと、気ばかりが焦り、結局は、何も手につかなくなり、ギブアップしてしまうことがある。
 人間が、一時にできるのは一つのことだ。ゆえに、さまざまな課題や仕事が一挙に降りかかってきた場合には、行う順番を決め、綿密なスケジュールを組んで、一瞬一瞬、一つ一つの事柄に全精魂を傾け、完璧に仕上げていくことである。
 それには、大いなる生命力が必要となる。そのために、真剣な唱題が大事になる。
 伸一の日々は、多忙を極めていたが、傍目には、いつも悠々としているように見えた。青年時代から戸田城聖のもとで激務をこなし、億劫の辛労を尽くすなかで、困難な幾つもの課題を成し遂げていく力を培ってきたからだ。まさに師の訓練の賜物であった。労苦なくして人間を磨くことはできない。
 「時は生命だ」(注)とは、文豪・魯迅の言葉である。
 時間をいかに使うか――それは、人生で何ができるかにつながっていく。時を最も有効に活用できる人こそが人生の勝利者となる。
 
 小説『新・人間革命』語句の解説
 ◎億劫の辛労を尽くす/「御義口伝」の言葉。億劫という長遠な時間にわたる辛労を、一瞬に凝縮したような精進を重ねること。
  
 引用文献
 注 『魯迅全集8』今村与志雄訳、学習研究社


【「聖教新聞」2016年(平成28年)8月3日より転載】


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