浩洋子の四季

古季語を探して、名句・秀句を紹介します。

〈小説「新・人間革命」〉

 

清新/五十九 法悟空 内田健一郎 画 (5884)

 九州記念幹部会は、午後一時過ぎに始まった。会場の大広間には、「先生、インドの旅お元気で行ってらっしゃい」と書かれた横幕が掲げられていた。集った同志は、山本伸一が意義あるインド訪問へ、九州の地から出発することに、喜びと誇りを感じていた。
 前方から会場に入った伸一は、皆の温かい拍手に迎えられ、参加者の中央を進んでいった。そして、大広間のいちばん後ろまでいくと、窓際に腰を下ろした。
 「今日は、ここで皆さんの話をお伺いします。“先駆の九州”の皆さんが団結し、意気盛んに、はつらつと前進する姿を心に焼きつけて、インドへ旅立ちたいんです」
 鹿児島の県長や九州の方面幹部、副会長の話と、式次第は進んでいった。
 伸一は、会場後方にあって、自分の近くに座っている人たちに視線を注いだ。そこに、見覚えのある懐かしい顔があった。宮崎県の藤根ユキである。
 彼女は、草創期から宮崎の地にあって、地区担当員(後の地区婦人部長)などを務め、近年は婦人部本部長として、真面目に、ひたぶるに信心に励んできた女性であった。伸一も、何度か出会いを重ねてきた。
 藤根は、一九七四年(昭和四十九年)に、苦楽を分かち合ってきた夫を亡くした。夫は、彼女をいちばん理解し、何でも話し合えた人生の伴侶であり、また、共に地域広布を切り開いてきた同志でもあった。心にぽっかりと大きな空洞ができ、すっかり元気をなくしてしまった。
 翌年の十二月、彼女は九州研修道場で伸一と会い、言葉を交わす機会があった。
 藤根は最愛の夫が他界したことを告げた。伸一は、こう言って彼女を励ました。
 「悲しいでしょうが、その悲しみに負けてはいけません。一人になっても、永遠の幸福のために戦っていくんです。ご主人の分まで頑張るんです。戦うあなたの心のなかに、ご主人は生き続けているんですから」
 その言葉に、藤根は奮い立った。

【「聖教新聞」2016年(平成28年)8月23日より転載】


☆彡------☆★☆★☆*------彡☆o☆:*:.♪☆★☆*------☆彡