浩洋子の四季

古季語を探して、名句・秀句を紹介します。

小説「新・人間革命」

 

源流 十四 法悟空 内田健一郎 画 (5905)


 二月六日の午後三時、山本伸一たち訪印団一行はデリー大学を訪問した。図書一千冊を寄贈する贈呈式に出席するためである。
 同大学は、一九二二年(大正十一年)に創立されたインド最高峰の総合大学の一つで、中国・日本研究学科もあり、日本を研究するための重要な機関となっている。
 知の殿堂には、誇らかに時計台がそびえ立っていた。到着した一行を、R・C・メヘロトラ副総長が温かい笑顔で迎えてくれた。メガネをかけた、白髪まじりの風貌は、重厚な知性の輝きを感じさせた。
 図書贈呈式は、構内にあるタゴール記念講堂で、教職員や学生ら百七十人が出席して、厳粛な雰囲気のなかで行われた。
 あいさつに立った副総長は、一行への歓迎の意を表したあと、伸一が創価大学などの教育機関や美術館等を創立し、トインビー博士との対談集など、多数の著作を世に出していることを紹介。そして、インドに興った仏陀の教えが東洋に大きな影響をもたらし、その一国である日本が、自国の伝統を生かしつつ、近代技術の大発展を遂げたことを賞讃した。
 伸一は、恐縮しながら話に耳を傾け、科学や経済の発展の陰で、精神性が失われつつある日本への警鐘の言葉ととらえた。
 精神性の喪失は、人間の獣性を解き放ち、物欲に翻弄された社会を生み出してしまう。
 伸一は、精神の大国・インドから、日本は多くを学ぶべきであると考えていた。
 科学技術の進歩や富を手に入れることが、必ずしも心の豊かさにつながるとは限らない。モノの豊かさや便利さ、快適さを手にしたことによって、むしろ、日本人は心を貧しくしてきたといっても過言ではない。
 科学技術や経済の発展につれて、家族愛や友情、人への思いやりは増してきたであろうか。歓喜や感謝の思い、満足感、充実感が心を満たしているだろうか。道行く人に、どれほど笑顔はあるだろうか。
 人間の幸せは、豊かな精神の土壌に開花する。心を耕してこそ、幸の花園は広がる。


【「聖教新聞」2016年(平成28年)9月17日より転載】


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