浩洋子の四季

古季語を探して、名句・秀句を紹介します。

小説「新・人間革命」

 

源流 四十 法悟空 内田健一郎 画 (5931)


 ジャッティー副大統領は、しばらく視線を落とした。憂いに満ちた目であった。やがて、その目は、次第に輝きを増していくように感じられた。それは、未来を担う子どもたちのために、インドを発展させようとする決意の光であったのかもしれない。
 今回の訪印中、山本伸一は、子どもたちと努めて言葉を交わし、兄弟、姉妹について尋ねてみた。すると、「十二人いましたが、三人死んで、九人です」などと、亡くなった兄弟、姉妹のことが、よく話題になった。疾病で他界したケースが多かった。零歳児の死亡率もかなり高いようだ。
 人は、まず何よりも生き抜かねばならない――副大統領は、この切実なテーマに向き合い、格闘していたのであろう。
 インドでは、「男の子を産むことは一つの生活防衛になる」という話も耳にした。
 子どもたちは、親が学校に通わせなくとも、働き手となる。社会保障が十分でない状況では、子どもの多い方が、やがて暮らしは楽になるという論理が働く。貧しさゆえの多産、そして人口過剰――大国インドの指導者の苦悩が感じられた。
 副大統領は、言葉をついだ。
 「第二の問題は、子どもの人格形成をいかに図るかです。これには、道徳と精神の道を歩ませなければなりません」
 伸一は、指導者たちが、未来の発展のために、インドの深き精神性を青少年に伝え、教育に力を入れようとしていることを強く感じた。二十一世紀の世界を考えるうえでも、極めて重要な着眼点であると思った。
 物心両面にわたって、子どもを守り育てていくことは、大人の責任であり、義務である。
 「すべての人を尊重せよ。しかし子供の場合は普通の百倍も尊重し、その汚れを知らぬ魂の純粋さを損なわぬよう努めよ」(注)とは、ロシアの文豪トルストイ箴言である。
 社会の新たな改革は、未来からの使者である子どもたちに、希望と勇気の光を送るところから始まるといってよい。
 小説『新・人間革命』の引用文献
 注 レフ・トルストイ著『文読む月日(中)』北御門二郎訳、筑摩書房

 

 

【「聖教新聞」2016年(平成28年)10月19日より転載】


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