常楽59〈小説「新・人間革命」〉
【常楽59】 法悟空 内田健一郎 画 (5747)
勤行会終了後、山本伸一は泉州文化会館の館内を回り、会う人ごとに励ましの言葉をかけた。また、代表との懇談会を行ったほか、数人の婦人部幹部とも語り合った。
彼は、この語らいの折、泉州地域から成る第七大阪本部の婦人部長・井草香に、微笑みながら話しかけた。
「私は、あなたの一生懸命な姿が、忘れられないんです。昭和三十一年(一九五六年)の大阪の戦いの時に、道案内をしてくれましたね」
伸一が、泉州で会場となっている会員宅を激励に回った時、案内役を務めてくれたのが井草であった。
その日、彼は、朝から大阪各地を駆け巡り、泉州では、二会場を回る予定であった。訪れた先々で、生命を削る思いで激励を続けてきただけに、伸一の疲労は、ピークに達していた。泉州の二軒目となるお宅に向かいながら、彼は言った。
「さあ、あと一会場だね。今日は、これで二十四カ所目なんですよ」
井草は、一瞬、躊躇した。二会場の予定が、どうしても訪問してもらいたい家があり、三会場にしてしまっていたのだ。
意を決して、もう一カ所、増えたことを伝え、伸一にわびた。
「お疲れのところ、申し訳ありません」
「いいえ。喜んで伺わせてもらいます。私は広布のため、同志のために一身を捧げる覚悟です。それが幹部ではないですか」
伸一は、当時を思い起こしながら語った。
「私は、一緒に戦い、共戦の歴史を綴った同志のことは、深く心に刻んでいます」
井草は、目を潤ませた。
さらに彼は、隣にいた泉州圏婦人部の指導長である永井明子を見た。
「あなたも頑張ってきたね」
「ありがとうございます! 今年は夫の十三回忌となります」
「その間の苦闘は、ご一家にとって最高の財産になりますよ。それが信心の世界です」
【「聖教新聞」2016年(平成28年)3月11日より転載】
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