〈小説「新・人間革命」〉
清新/五十八 法悟空 内田健一郎 画 (5883)
山本伸一は、自身の人生の最大テーマは、「世界広布の基盤完成」にあると心に決めていた。世界は、あまりにも広く大きい。早くその事業に専念しなければ、世界広宣流布の時を逸してしまいかねないとの強い思いが、彼の胸には渦巻いていた。
「七つの鐘」が鳴り終わる今こそ、まさに、その決断の時ではないのかとも思えた。
二月一日、九州研修道場では、伸一が出席して、「伝統の二月」のスタートを切る九州記念幹部会が開催されることになっていた。
幹部会の開会前、彼は、研修道場内の移動の便宜を図るために設けられた橋の、テープカットに臨んだ。
小雪が舞い、霧島の山々は、うっすらと雪化粧をしていた。皆が見守るなか、木製の橋の入り口に張り渡されたテープを、女子部の代表がカットした。
伸一は、集まっていた人たちに尋ねた。
「この橋の名前は?」
皆が口々に答えた。
「まだ、ありません!」
「先生、名前をつけてください!」
彼は、即座に、こう提案した。
「日印橋でどうですか? 日本とインドに友好の橋を架けるという意義と決意を込めて、つけさせていただければと思います」
歓声と拍手が起こった。
それから伸一は、先頭に立って橋を渡った。同行の幹部は、雪が薄く積もった橋を革靴で渡る伸一が転びはしないかと、はらはらしながら見詰めていた。彼は、橋を渡ることで、準備にあたってくれた同志の真心に、真心をもって応えたかったのである。
その小さな行動のなかにも、世界を結ぼうとする伸一の、哲学と信念があった。
――誠実と誠実が響き合い、心が共鳴する時、永遠なる友情の橋が架かる。利害と打算の結合は、状況のいかんで、淡雪のごとく、はかなく消え去ってしまう。友情の橋こそが、人間の絆となり、さらには、恒久平和を築く礎になる!
【「聖教新聞」2016年(平成28年)8月22日より転載】
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