常楽(4)/小説「新・人間革命」 【常楽4】
【常楽4】
山本伸一の問題提起に、ガルブレイス博士は、一言一言、噛み締めるように、ゆっくりと語り始めた。
「それは、人生を考えるうえで、極めて重要な、根本的な質問です。しかし、これほど難しく、また神秘的な問題はないと思います。正直なところ、人間の死後がどうなるか、私はわかりません。
ただし、存在というものには連続性があると、私は信じております。そして、私の場合は、来世があるかないかは、もうすぐ、この目で確かめられるでしょう」
ここでもユーモアを忘れなかった。
笑いは対話の潤滑油である。
重要かつ深刻なテーマを語り合うと、どうしても雰囲気は、堅苦しくなりがちである。博士は、皆を和ませたかったのであろう。伸一は、そこに、繊細な気遣いを感じた。
語らいのテーマは多岐にわたり、読書論、結婚観と進んでいった。
「いちばん感銘深く読んだ本」が話題になると、二人ともトルストイと答え、博士が「オーッ!」と歓声をあげる一幕もあった。
そのトルストイは、「よい人との交際は幸福をもたらす」(注)と記している。
話題が人生論に及んだ時、伸一は、「博士のモットーは何か」を聞いてみた。
「これといった明確なものはありませんが、一つのルールといったものはあります。『今は働こう。しかし、それを完成できるとは思うな』ということです。私は、常に、そう自分に言い聞かせています」
伸一は、すばらしい生き方であると思った。
「今は働こう」とは、壮大なる理想をもちつつ、現実を見すえ、今の一瞬一瞬を全力で行動し続けることであろう。そして、「それを完成できるとは思うな」とは、安易に結果を求め、妥協するのではなく、より高い完成を求め、努力し続けることであろう。
伸一もまた、博士からモットーを問われ、「波浪は障害にあうごとに、その頑固の度を増す」と答えた。
※ 小説『新・人間革命』の引用文献
(注) 「カルマ」(『トルストイ全集9』所収中村白葉訳、河出書房新社
【「聖教新聞」2016年(平成28年)1月6日(水)より転載】
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